肩甲下筋…肩の痛み、腕が上がらない症状のほとんどに関与する、くせ者筋肉
肩がズキズキ痛む、寝ていても痛みで目が覚める、腕が上がらない。
健康食品のCMでよく耳にするセリフですが、こういう人はいつも反対側の手で痛む肩から上腕を揉んだりさすったりしています。
「手当て」と言う言葉もありますからなんとなく気持ちもわかります。でも、そんなところをどうこうしても楽にはならないのが実状です。
えてして自分ではどうしようも出来ない場所に限って、痛みというものは発生するようです。
肩(上腕骨頭近く)には棘上筋、棘下筋、小円筋、肩甲下筋が上腕骨頭をちょうど人の手でつかむような形でくっついています。
そしてこれらの筋肉はすべて、上腕骨を肩甲骨に固定する働きをして筋肉どうしが互いにバランスをとっているので、どれか一つの筋肉が損傷して短縮するだけで全体のバランスが崩れて肩の運動に支障がでます。
「Clinical massage」James H.clay/David M.pounds著・医道の日本社刊
「Clinical massage」James H.clay/David M.pounds著・医道の日本社刊
筋肉はすべからく刺激を受けると短縮します。
一つの筋肉が損傷を受け短縮して他の筋肉を引っ張ると、今度は引っ張られた筋肉が短縮し、しまいには上腕骨が肩甲骨にびっしりと押し付けられるようになり、痛い、動かしにくいという症状が出来上がります。
投球動作などで損傷するのは主に棘上筋や棘下筋ですが、この場合は「回旋筋腱板損傷」などと大層な言い方になります。
ある程度の年齢になれば腱板の裂け目はたいがいあるようですが、MRIでそれが見つかると、「こりゃいかん、手術ですな」と、なるのが最近の流行みたいです。
病院勤務時代、MRIの無かった時に腱板の手術を受けた患者さんをリハビリした記憶が私にはありません。それでもカルテには「腱板損傷」と書かれた患者さんがたくさんおられましたが、五十肩や頚肩腕症候群などと治療が全く変わるはずも無く、それはそれで皆さん治癒していかれたものですが・・・。
以前、当院に通院されていた方で、「とにかく、手術した肩がズキズキ痛む」と、訴えられる患者さんがおいでました。
その方、4、5年前に肩痛でMRI検査の結果、「腱板損傷」との診断で、80歳近くで手術されたそうです。(チタンで留めてあるそうです)
腱板の裂け目を医師が「加老性のもの」として無視してくれさえしたなら、余生にストレスとなる痛みは無かったでしょう。
それはさて置き、肩の痛みというものは、通常は激しい運動をした覚えが無く、徐々に痛くなるということがほとんどでしょう。
原因としては、 従来は運動不足によるものがほとんどですが、近頃では、パソコンでの持続的なマウス操作などで肩甲下筋がこわばり、筋繊維が損傷を起こすことが多いようです。
この「肩甲下筋」がくせ者で、肩の筋肉の中で最初にへそを曲げて他の筋肉とのバランスを崩しますので、肩の痛みのほとんどに関与しています。
さらに、肩のみならず上腕から肘、手首にまで痛みを飛ばします。
ところが、この「肩甲下筋」という筋肉は、肩甲骨とあばら骨の間にあり、脇の下を通って上腕骨に付いているので表面からはほとんど触れません。
脇の下に指二、三本差し込めば何とか指圧、マッサージが可能という程度ですので、肩の上から撫でても揉んでも気休め程度にしかなりません。そのため、筋硬結がひどくなると必然的に治療期間が長くなります。
ですから、この筋肉(肩甲下筋)の単独の損傷の間に、他の筋肉に影響を与えないうちの早めの受診をお勧めしますが、たいていの方は肩が水平までしか上がらず、夜間に痛みで目が覚めるほどにならないと受診されません。
我慢強い日本人の奥ゆかしさでしょうか・・・。
就寝中に痛みで目が覚める、これは無意識で寝返りをうった際に肩が下になり、肩甲下筋がより短縮して、その痛みで目が覚めるというパターンです。
気がついた時にはすでに回避姿勢をとっているので、「肩を下にもしていないのに痛みで寝られない」と、なる訳です。
対症法としては、痛い方の肩の下に丸めたバスタオルなどを入れて肩が少し持ち上がるようにして、そちら側に寝返り出来なくするのも一つの手でしょう。
それに、バンザイをして寝ておられる方は、無意識に、縮んでいるこの筋肉を伸ばそうとしているのでしょう。
まずは、日頃動かさないところまで腕を上げてみて、関節がこわばっていないか確かめてみてください。
「トリガーポイントと筋筋膜療法マニュアル」Dimitrios Kostopoulos & konstantine Rizopoulos著・医道の日本社刊
ちなみに、下のストレッチの写真、ここまで出来ればこんな文章も読む必要はありませんが・・・。
「トリガーポイントと筋筋膜療法マニュアル」Dimitrios Kostopoulos & konstantine Rizopoulos著・医道の日本社刊
ここまでできれば、何も問題ありません。
肩には他にも重要視される筋肉もありますが、あくまで私の個人的な見解で書き散らかしているだけですので。