中殿筋(ちゅうでんきん)~典型的な「腰痛」の原因筋~
大殿筋、小殿筋については以前書きましたので、今回は同じお尻の筋肉である「中殿筋」についてです。
場所的にはお尻の横のほうで、「右へ、ならえ」で腰に手を置いたところから5~10㎝ほど下です。
表面から大殿筋、中殿筋、小殿筋の順で重なりあっていますので、触ってみてそれぞれを識別するのは結構困難です。
この「中殿筋」という筋肉が不具合を起こしますと、典型的な「腰痛」になります。
天を仰いで腰を反らしてトントン叩いている人、たまに見かけますが、たいがい中殿筋がヒットしています。
診療していて話を聞きますと、ウォーキングで傷める事が多いようです。
得てしてウォーキングを日課にしている方を見ますと、グッと腰を反らして必要以上に見事な姿勢で歩いておられます。
過度に骨盤が前方に傾くため、骨盤を支える中殿筋にしわ寄せがくるのでしょうが、何につけても「必要以上」というのは良くないようです。
「腰の骨と骨盤の継ぎ目、ちょうど真ん中が痛い」と、もろに腰の異常だと感じておられます。
確かに痛みはそのあたりに出ますが、実際押さえてみると、その部分に痛みを出すほどの凝り固まった筋肉を触知する事はあまりありません。
中殿筋の「凝り」による痛みのあおりを受けて、その辺の筋肉が多少いらぬ緊張を強いられているだけです。
この「中殿筋」という筋肉は、骨盤を安定させ、股関節を開く作用があります。
長時間立っているだけで負荷がかかりますし、あぐらをかくと短縮して強ばりやすくなります。
あぐらは腰に悪いとか言われるのは腰椎が曲がって腰の筋肉に負担がかかり痛くなるのではなく、股関節を開く事で中殿筋が短縮し、こわばり、その結果の痛みではないかと思います。
左:「トリガーポイント・マニュアル-筋膜痛と機能障害Ⅲ」監訳:川原群大 エンタプライズ株式会社刊
右;「ID触診術」鈴木重行・平野幸伸・鈴木敏和著・エヌ・ティー・エス刊
妊婦さんも腰痛を訴える事が多いですが、単にお腹が重くなり支える腰に負担がかかるだけではないようです。
お腹が大きくなってくれば、歩く時も座っている時も股関節や足先が開き気味になり、中殿筋が短縮されるということも原因のひとつではないかと思います。
中殿筋も小殿筋と同じように大腿や足先に関連痛を出しますので、ご多分にもれず、大先生の世に誇る手術数の1例になる確率が高いので、少々気をつけたほうがよろしいようです。
最近では、狭窄症やヘルニアンの方はもちろん、「すべり症」の方も手術の網に掛かるようになってきました。
以前は、「すべり症」は健常者にも何%か見られ、腰痛の原因かどうかが懐疑的で、固定術も結構大ごとになるので、保存的に様子を見るというのが主で、手術はそんなに頻繁には行われていませんでした。
が、近頃では良いのか悪いのか技術が進歩して、躊躇なしにボルトが打ち込まれるようになりましたので、スベリストの方々もおちおちしてはいられません。
そもそもヘルニアや狭窄症、すべり症に固有の症状というものがありません。
腰痛なり、臀部痛なり足のしびれ等があり、レントゲンやMRIなどで骨の形態がいずれかに該当すれば、その病名をその後長い間背負わされます。
大先生が気のすむまで骨を削り尽くすまで・・・。
痛みやしびれがどの部位であろうと、下半身なら「腰の神経」で、上半身なら「首の神経」という具合でかたがついてしまいます。
長い歴史に裏打ちされた素晴らしい診断はいまだに世の主流です。
そういう病名をつけられ、既に手術の同意書にサインをされた方は残念ですが、それ以外の方々はきちんと患部を治療しましょう。
「患部」とはその症状の原因となる悪いところです。
たかだか腰痛で、無傷では過ごせない時代はまだ続いています。