腸腰筋(ちょうようきん)…腰とわき腹から股の付け根の痛みの原因筋肉
腰の筋肉と言えば、たいていの方は臀部から背中にかけてへばりついている筋肉を連想されますが、一番重要な筋肉は「腸腰筋」(ちょうようきん)と呼ばれる「大腰筋」と「腸骨筋」が合わさった筋肉です。
専門の治療家ならそれを触知できるのは当たり前ですが、なかなか、その筋肉のありかもわからず、その筋肉の痛みも知らない先生もおられるのではないでしょうか?まさか、そんなことは無いと思いますが・・・。
腰痛と聞けばやみくもに腰のあたりを揉んだり、電気を当てたりするケースも多いようですが、肝心の痛みを出している筋肉にアプローチしていなかったらそう簡単には痛みは取れません。
病院勤務時代の経験では、リハビリにまわって来る指示書には腰なら「腰のマッサージ、電気治療、」と言うようなもので、どこそこの筋肉、どこの靭帯を、などと具体的な指示を受けることはまずありませんでしたから、普通に腰に治療器を当て、普通にマッサージするのが常識でした。今でも、どこの病院のリハビリでも同じでしょう。
だから何年間も同じ患者さんが同じ治療を受けに来られ、いつもリハビリ室は混雑している訳です。
腸腰筋は、腰椎から腹腔内を通り、大腿骨の上方へ走る筋肉です。
わかりやすく言えば、背中から太ももの付け根にかけて、腹の中を後ろから前に向かい、斜めに通っている筋肉です。
四足の家畜ならば軟らかいスライス肉のとれる「フィレ」、「テンダーロイン」と呼ばれる部位です。
「Clinical massage」James H.clay/David M.pounds著・医道の日本社刊
四足動物の場合は後ろ足を前に振り出す動作にしか使われませんが、直立の人間となると股関節を曲げ、脚を持ち上げるため、はるかに大きな筋力が必要になります。
デスクワークや車の運転、テレビの前で座って過ごす時間が長くなれば、腸腰筋はストレッチされることなく短縮(こわばった)状態になります。
こういう筋肉にさらに力がかかると一気に限度まで収縮してしまい、「こむらがえり」現象が起こります。腸腰筋にこれが起きると、痛くて腰が伸ばせず、それ以上曲げることもできず、股関節も折り曲げたままの姿勢で固まる「ぎっくり腰」になります。
背中側の筋肉(腰方形筋、多裂筋)を傷めた時にも色々特有な痛みと姿勢はありますが、腸腰筋のこれは特別です。痛みは腰と、わき腹から股の付け根に出ます。股関節だけに痛みが出ることもあります。
わき腹が痛くて内科を受診しても「異常なし」と言われることもあって、接骨院に来られる方もおられます。まぁ内臓疾患を先に検査されて来られるのでこちらも安心ですが。
この状態でMRI検査をしてヘルニアでも見つかろうものなら、すべてヘルニアのせいにされ手術台へ直行という運の悪い方もおられます。
先日、もっと運の悪い方もおられました。
ギックリ腰で受診してMRI検査で腰にヘルニアが見つかり、(もっともヘルニアが写っていたところで関係ないのですが・・・。問題は筋肉ですから。)ついでに首も調べたところ、頚椎にヘルニアらしきものが見つかったため、腰のヘルニアは無視して、まったく症状の無い首の手術???をされてしまったという方。たぶん、この病院は首のヘルニア手術のキャンペーン中だったのでしょう。
手術後、腰の痛みは取れたが(???)今度は何ともなかった手にしびれがひどく出て仕事が出来なくなり、会社を辞めざるを得なくなってしまいました。
なぜ腰の痛みが取れたかについては、手術中の何時間にもわたる全身麻酔、筋弛緩剤により筋肉のこわばりや硬結が取れるからだと言われる整形の先生もおいでます。腰のヘルニアの手術に関してもこういう理由みたいです。
高齢で一日中テレビの前で座っている方は慢性的に腸腰筋が短縮しているため、いざ腰を伸ばそうとすると股関節が伸びず、体を起こすと今度は膝を曲げなければバランスが取れなくなります。膝を曲げ、天を仰ぐような特有の姿勢になるわけです。
嫌なことに、この「腸腰筋」という筋肉はお腹の中の深いところにあるので、マッサージや電気治療が難しく、そのため痛みの続く時間も長引きますので、日頃から長時間座っておられる方は特に心がけて下腹から股関節の前面のストレッチをされておかれたほうがよろしいかと思われます。
本格的に痛み出し、運の悪い所に出くわすととんでもないところにメスを入れられるかもしれませんよ。
「トリガーポイントと筋筋膜療法マニュアル」Dimitrios Kostopoulos & konstantine Rizopoulos著・医道の日本社刊